こんなときに浮かんでくんのは、いつも決まって愛しいあいつ。

まぁ雷さんが言ってたように、春輝だって明日に赤城組に攻めることくらい知ってるから、下手な動きはしねぇだろうし大丈夫だとは思うが…。

でも……、だったらこの胸騒ぎはなんなんだ?

まるで…あんときみてぇじゃねえか。

春輝が学校を飛び出していっちまったあんときのように…。

あいつがまたいなくなるような気がしてならねぇんだ。

あんときみてぇに、またなんにもできねぇまんま、あいつを手放してしまいそうで………。

飛び出していくあいつの後ろ姿が頭に浮かんで離れてくれない。

「…春輝……」

声にでてたかどうか、自分ですら分かりづらいほどに小さく、囁くような声。

誰にも聞かれることのなかったそれは、俺の最後の悪あがきに似たようなものだったのかもしれねぇ。

名前を呼んでも帰ってこない。

それは、あの人が帰ってこなかったときと同じだった。

“母さん…?”

呼んでも、呼んでも、呼んでも……。