「黙れ」

ヒュッと空を切る音がして、銀髪の男の脇腹に足がめり込むのが見えた。

あぁ…、自分で蹴ったのか。

「…弱い」

ポツリと呟いた。

「春輝…、もういいよ!
そんなに何に怯えてるの!?」

紫の髪の男が問いかけてくる。

私は黙ってその男に背後に回り込み、首の後ろに手刀を叩き込んだ。

「は、るき…っ」

ドサリと、男は倒れ込んだ。



…なんだろう。自分なはずなのに遠く感じる。

まわりの景色も、自分を叩く雨も、目の前にいる人たちも。

何もかも、遠い。

いつもなら、意識を失い、相手が血だらけになるまで殺るのに、どうしてかできなかった。




「残ったのはお前らだけか」

目の前の3人の男を見る。

「…弱いなぁ……、お前ら」

倒れて呻いている4人を見回す。

「もっと…俺の敵になれよ……」

自分でもわかるほどの弱々しい声。

いつのまに、こんなに弱くなったのかな?

…違うな。

最初からただの強がりだったんだ。

感情を殺せば楽になれると思った。

何も感じなくなると思った。

──苦しいのがつらくなくなると思った。