右手を握りしめ、鳩尾めがけて突き出す。

だけど、男はひらりとそれをかわした。

「…ふーん」

こいつら、強いな。

いいなぁ。手応えありそうだ。

「もっと……、“私”の敵になれよ」

そうすれば、私をもっと嫌いになれるから。

「春輝、俺はお前と殺りあいたくなんかねぇ」

男が顔を歪ませる。

まるで雨に濡れていくように、段々と浸食されていく。

言葉は時には人を救う。

だけど、

「…何をきれいごとを。俺はwingだ」

今の私にとっては、ただの戯言(たわごと)に過ぎないんだ。

「いっそのこと殺してくれればいい。
こんな人間1人死のうが誰も悲しまない」

どんなに願っても、届かないものがある。

「望まれもしなかった、生きる価値も意味もない命だ。
今更なくなろうがどうだっていい」

どんなに祈っても、手に入らないものがある。

「…なぁ、絶望を教えてやろうか?」