~雅人 side~
総長たちが幹部室へと行ったあと、俺はその場から動けなかった。

さっきまでの歓声が嘘のように。

いや、俺だけじゃなく下っ端全員、誰も動こうとさえしなかった。

姫になる人……春輝さん。

あの子の目がチラリと見えたとき、息が詰まった。ゾクリとするほどなにも映してない…真っ暗な瞳。

族に…それも全国クラスに入っていれば、色んな闇を抱えた人に出会う。だけど、それらなんて比じゃないほどのものだった。

“分からないんだよ”

そう言った春輝さんの声は悲しげで。

“私には“好き”が分からない”

手は強く握りしめられていた。

そんな春輝さんを見て、守りたいと思ったのも確かだし、この子なら姫に相応しいと思ったのも確か。

やっとのことで声を振り絞ったけど、たぶんかすれてしまってたと思う。