『僕の背中が見える?』




大きな雨が降っていても、背中を見間違えることなんてない。

どうしてそんなことを聞いたのだろう、とその時は想っていた。





今ならわかる。




背中を、押して欲しかったのかもしれない。

自分の心の中を全て伝えることが出来ないけれど、それでも『大丈夫』と、言って欲しかったのかもしれない。

隣で並んで支えて欲しいと思うこともあるけれど。

しっかりと後ろから見ていて欲しい、と。

そんな風に、想ったのかもしれない。




「・・・ねぇ。この雨は、どうしてこんなに雨粒が大きいの?」




傘も差さず濡れていた背中に並んで、小さな傘を差してあげた。

肩が触れる距離に近づきたくて。




「草や木を潤すために。陽が長くなると乾いてしまって、潤いが足りなくなるだろう?」




こくんと頷く。




「人間も同じでね。相手の気持ちが分からないと、心が乾くんだ。それを潤すために、言葉をもらうんだ。そして、もらった言葉と同じだけの言葉を、返す必要があるんだ。相手の心を、潤すために。」




心を、潤す。

この人の口から出る言葉は、とても綺麗な響きだけれどいつも儚い。