本当はずっと悩んでいた。

けれど、目の前の仕事をしっかりやってみようと思わせてくれたこと。

櫻井さんに、とても感謝していた。



役職をもらうということは、それだけ責任が大きくなるということ。

その重圧が私には少し重荷だけれど、しっかりと抱えていこうと思う。



二人で足並みをそろえてオフィスに戻る。

そろそろ心配した尾上部長が呼びにくるだろうから、その前に戻ってあげなくては。





「・・・あ、忘れ物。」




朝のミーティングの際に、内線電話のところに自分の手帳を置いたのを思い出した。

まだ置きっぱなしになっているだろう。




「すみません、ミーティングルームに寄ってから戻ります。忘れた手帳取ってきます。」




櫻井さんに告げ踵を返す。

ミーティングルームは給湯室のすぐ近くだ。




「そそっかしいな。先に行くから、すぐに戻れよ。仕事は山積みだ」




山積み。

本当にその通りだ。

これからが一番繁忙期に入るのだから、やることはいくらでもある。




「すぐ戻りまーっす!」




もう早足で離れていたので、少し大きな声で返事をしてミーティングルームへと向かう。

横目に、コーヒーを持った手を軽く上げた櫻井さんが見えた。