自分の存在がある事によって病院なんて作らないで済むと考えている人間もいる。

しかし志那自身も人間であって、誰も彼も癒す機械ではない。力を使えばそれなりに同じように疲れる。

病院は病や怪我の治癒を手助けする場所だから、むやみやたらに自分を頼らないでほしいが、

それは志那の意思ではどうする事も出来ない事。全てはネームレスが決めるからである。

今目の当たりにしている人々は、自分の力を信じて前を向いている人達ばかり。

そのような人々に力を嫌でもふるってしまう事になるのかと思うと、志那の心中は複雑であった。


「なあ」


その時だった。突然声をかけられたのは。

志那が呼ばれた方を向くと、そこには青いパジャマ姿の茶髪の男がいた。歳は志那と同じか少し上と言う印象である。


「なんでしょう?」

「さっきから変な顔しているけれど、どこか具合でも悪いの?」

「あ、いえ。えーっと、ですね……この病院に家族が入院していまして。それのお見舞で此処に来たのです」


志那は嘘をつくことに躊躇いを感じたが、“救世の仕事をしに来ました”と公に言う事は、

自分自身だけでなくネームレスにも確実に危害が及ぶ事は確実である事を知っていた為、真実を言う事も出来なかった。