とある病院に、“彼女”はいた。


「ありがとうございます……っ! このご恩は一生忘れません」

「いえ……そんな…………」


中年女性が涙を流し感謝をしている相手。それが“救世”の力を与えられた宮園志那(みやぞの・しな)である。

歳は十六。セミロングの黒髪に、黒いワンピース。

瞳の色はコンタクトレンズで黒いが、力を与えられた影響で実際は桃色に変化している。

恐らくは特別な存在を強調したいが為なのだろう。


(やはり慣れませんね……)


彼女の病院での仕事は病、あるいは傷を癒し、治すこと。そして遺体が腐敗、あるいは白骨化をしていない限りは蘇生をすることである。

しかし彼女はこの力は受け入れたものの、力を使う事に対しては戸惑いにも似た感情を抱いていた。


「あの、南雲さん……」

「どうしたんだい?」

「少し一人になって休憩を頂きたいのですが……大丈夫でしょうか?」

「うーん……本来は許しがたい事なんだけど、志那なら勝手に使う事はないだろうし。……いいよ。一時間したら戻っておいで」