「なぁ、勝負しねぇか?」
30分ほど自主練をしたところで、ドリブルをしながら尚人が急にそんなことを言い出した。
静かな体育館にボールが強く弾む音だけが響いている。
「勝負……。あぁ、ワンオンワン?」
「ちげーよ。単に交互にシュートを打って、決まった方が勝ちってルールでやるんだ。おまえシュート下手だし、勝負形式にした方が燃えて良いだろう?」
確かにごもっともな意見だ。あたしはシュートが一番苦手だし、勝負形式の方が燃えやすいタイプ。そのへんのところを分かっていて提案してくるのは、さすが幼馴染みの尚人だ。
だけど……。
「でもそれってさ、あたしの方が絶対不利じゃない? 尚人はシュートが一番得意なわけだし……」
「じゃあ、ハンデでもつける? 俺は別にそれでもかまわねぇけど、実夏ってそういうの嫌いなんじゃねぇの?」
すべてを見透かした尚人の言葉に、あたしの頬はどんどん膨れていく。そんなあたしを面白がって口角を上げている尚人を見て、事情を何となく悟った。
……そうか。
最初からそれが目的だったのか。あたしが勝負を断れないようにすることが。
それが分かったらこの勝負、絶対勝ってやるんだからね!
「分かったよ! ハンデなしでその勝負受けてやる!」
尚人をビシッと指差してそう宣言すると、そいつは満足そうに笑っていた。
こうやってあたしはまた、尚人の思う壺にはまっていくんだ。
「よし、じゃあ決まりな。あ、言い忘れてたけど、シュートが決まった方は“相手に何でも質問出来る権利”を得られるルールだから」
「は!? 何それ、そんなの聞いてないし!」
「だから今言ったじゃん。ほら、さっさと勝負始めるぞ。まずはルール説明も兼ねて俺からな!」
尚人がそう言い終えるのとボールがリングに吸い込まれるのは、一体どちらが早かっただろう。
綺麗な弧を描いて飛んだ尚人のシュートは、早くももう決まっていた。



