「おい、実夏」
尚人があたしの名前を呼ぶときは、いつも決まって素っ気ない。
相変わらずの声に何よ、と反応する前に、ボールがあたしの胸元にパスされた。
あたしが取りやすい位置を把握してパスされたボール。力加減だって、合わせてくれている。
「さっさと練習すんぞ。俺がシュート見ててやるから」
尚人はそう言うとタオルを取りに歩いて行った。その横顔には疲れが見えて、あたしは悔しさから下唇を噛み締める。
……馬鹿なやつ。
疲れてるならあたしなんか放っておいて、先に帰れば良いのに。
尚人は別に自主練しなくても十分上手いから、下手なあたしにわざわざ付き合う義務なんてないんだからさ……。
いつもあたしの自主練に勝手に付き添ってくれている尚人だけど、あたしのために熱心に指導してくれているのは分かる。
だけど「ありがとう」という一言がすんなり言えない。
いつもバスケが下手なあたしを馬鹿にするくせに、こういうときにはきちんと面倒を見てくれるなんて。本気で馬鹿にしてるのかどうか分からなくなる。
おまけにそんな尚人にイラついているのか感謝しているのか、自分の気持ちも分からずに混乱してしまうわけで。結局いつもお礼を言えずにその場をやり過ごしてしまうんだ。
……ほんと、上手くいかないもんだよなぁ。
バスケのシュートも、腐れ縁のやつへの恋心も。
お互いを馬鹿にし合うことで一緒に成長してきたようなものなのに、今はもう何歩も前を尚人が歩いていくだけ。あたしはそれを必死に追いかけるのに全然届きやしない。
一緒に始めたバスケだって、天と地の差ほど実力がかけ離れてしまった。
おまけにあたしの尚人への想いなんて、ずっと迷子のまま彷徨っている。
ゴールはいつでも、すぐそばにあるというのに――。



