「……実夏ちゃん?」
あたしの心がここにないことに気付いたのか、先輩が不思議そうにあたしの顔を覗き込む。
瞳が潤んでいることに気付かれたくなくて、照れている素振りを偽るために短い髪の毛を触りながら下を向いた。
「あ、あの……。もう少し考えさせてもらってもいいですか? 告白されたのなんて初めてだから、ちょっと戸惑ってて……」
「あ、あぁ。まだならいいんだよ。焦って適当に返事される方がきついしな」
姿を現すギリギリまで来ていた涙が何とか引っ込んだので、恐る恐る先輩の顔色を窺う。
テンパっている先輩はかなり焦っているみたいで、何だか申し訳なくなる。
だけど、しょうがないんだ。今は先輩の好意に答えられるほど、心に余裕がない。
「じゃあ、また今度。気持ちが決まったら返事聞かせてよ」
「あ、はい……」
「良い返事、期待してる」
小山先輩は去り際にそう言い残すと、名残惜しそうに体育館を出て行った。
……みんな、残酷だ。
尚人の前であの話を持ち出す先輩も、先輩の気持ちにさっさと答えないあたしも、この光景を見ても何も言ってくれない尚人も。
あまりにも残酷すぎて、もともとムカムカしていた胸が余計に重くなった気がした。
おまけにいつの間にか先に片付けを済ました部員はみんな、先輩と同様に帰っていってしまっている。そのせいで広い体育館で尚人と二人きりになってしまい、重苦しい異様な空気に包まれている。それが余計に胸を締め付けた。
部活が終わったあと、自主練をするためにこうやって尚人と二人きりで残ることはよくあった。今日だって最初からそのつもりだったわけだけど、さっきのことがあったばかりだから気まずい。
でもどうせそう感じているのはあたしだけで、尚人は何も感じていないんだろうな。
さっき目を逸らされたときから、とっくにそんなことは分かりきっている。



