「……おい、実夏(ミカ)」


 悪態をついたばかりで何となく尚人の顔を上手く見られなくて、拾ったばかりのボールを手の中で弄んでいた。
 するとぶっきらぼうな声で呼ばれるので、仕方なく顔を上げる。


「ほら、それ貸せよ」


 尚人は右の手のひらを広げて掲げ、パスを催促している。日に焼けていない、男子にしては白い手のひらが目に入った。

 何で同じバスケ部で、同じように外で走り込みをしているにも関わらず、あいつの方があんなにも綺麗な手をしてるんだろう。
 あたしなんて手どころか全身浅黒いし、指なんて突き指ばかりしているせいか最近歪んできた気がするっていうのに……。

 あいつの指は程よく骨ばっていて、いつもボールを軽々と掴むんだ。それが少し羨ましいけど、あたしの小さな手では到底敵いっこない。


「……」


 何から何まで気に食わないというのにボールまで譲ってしまうのは何だか癪に障るけど、しょうがないのでパスしてやる。
 ただし、胸の前から勢いよくボールを放った。片手では受け取りにくくするために。

 だけど――。


「おっ……と。おいおい、ちょっとは手加減しろよなー」

「うっさい。それぐらい取れなくてどうすんのさ」


 皮肉なことに、尚人は片手で軽々とボールを受け止めた。しかも緊張して軌道が乱れたボールを、大して動くことなく腕を伸ばしただけで手にしたんだ。

 ……何だか、何もかもあたしより一歩先を行く尚人が気に食わない。

 一番そばでずっと一緒に育ってきた間柄だというのに、尚人だけがどんどん前を歩いていく気がするんだ。

 中学生になってからバスケを始めたのは、お互い一緒なのに……。

 膨れっ面でいじけていると、尚人は数回ドリブルをしたあとボールをリングに向けて構えた。

 その一連の流れはほんと無駄がないくらい綺麗で、思わず見とれた瞬間にはもう、ボールはリングの中に吸い込まれていた。