「……ったく、しょうがねぇなぁ」
そう呟きながら乱暴に頭を引き寄せられたかと思うと、そのまま尚人の胸の中に閉じ込められた。
その拍子に持っていたボールが床に落ちる。
耳元で、ぶっきらぼうな声が言った。
「――好きだから、気になるに決まってんじゃん。実夏の気持ちは俺のものなんだから、誰にも渡したくねぇ。そう思うのは当たり前だろ?」
……何て、自意識過剰な言葉だろう。
だけど照れくさい中で尚人を見上げれば自信満々に笑っているので、完全にお手上げだ。
それに言ってることは……間違いじゃないしね。
こう言ってもらえるだけで十分だった。嬉しくて尚人の背中に手を回してしがみつけば、幼い頃から慣れ親しんできた匂いにとても落ち着いた。
「……うん、あたしの気持ちは昔から尚人のものだよ。ねぇ、尚人の気持ちは誰のもの?」
また質問をするなんて、あたしはあとどれだけシュートを決めなければならないだろう。
先が思いやられるけど、嬉しそうに笑った尚人を見たら俄然やる気が出てきた。
「……俺の気持ちは、ずっと実夏のものだ」
打って、外れて、また打って。
そうやって何度もゴールを目指すことでシュートが少しずつ上達していくように、あたし達の恋心も成長していたのかもしれない、なんて。
恋心を乗せたシュートが尚人に届いた今なら、そんな風に思えた。
― おわり ―



