「ねー、もうそろそろやめにしない? さっきからあたしだけ質問されてるし飽きた」
ボールを両手でくるくると回しながらそんな提案をしてみる。
尚人は心底不機嫌な顔をしてあたしに呆れていたけど、「じゃあ、俺のこのシュートで最後な」と言ってボールを放った。
案の定、いとも簡単に決まってしまったシュート。
でもリングをくぐり抜けたボールは弾んで体育館の出入口に向かって行ってしまい、そこに近い側にいたあたしは慌ててそれを追いかける。
幸いボールは開けっ放しのドア付近の壁にぶつかって勢いを失い、外に出ていってしまうことは免れた。
少しだけ安堵して、壁際に転がって止まったボールに手を伸ばす。
……その瞬間、後ろから影が伸びてきた。
「……尚人?」
振り向くと、すぐ後ろに尚人が立っていた。
真剣な眼差しはボールのことなど忘れて一度も見ずに、代わりにあたしの顔をじっと見つめている。
「どうしたの……?」
至近距離で見る尚人の顔に違和感を覚える。
それを気にしないように努めて明るく笑って問いかけるけど、返事は返ってこない。
それどころか尚人は右手をあたしの顔の横に伸ばして壁につき、あたしの身体は尚人と壁の間に追いやられた。
背中にピタリとくっついた壁の冷たさが、一気に思考を冷静にさせる。
背の高い尚人に壁際に追い詰められて見下ろされると、背が低いあたしはまるで猛獣に狙われた小動物みたいだ。
二人の吐息が重なる距離で見つめ合っていると、動悸が異常な早さで駆け足を始める。
「――なぁ、さっきのシュートの分の質問だけど」
「……」
「実夏、小山先輩と付き合うのか?」
「……っ!」
尚人の瞳の中であたしが動揺している。たぶんそれはもちろん尚人に気付かれているだろうけど、勢いよく目線を逸らした。



