「……うん、蒼ちゃん、部屋行ってて。あと30分くらいだから」

「エプロン着た主婦ってなんかそそられるんだよねえ。ちょっと試してみたい」

「あたし学生だから。未婚だから」


後ろ手でしっしと蒼ちゃんを追い払う。


蒼ちゃんの姿がなくなったことをちらりと見て確認してから、あたしは大きく息を吐いた。


あんなことを素で言っちゃう蒼ちゃんが恐ろしい。


嫌でも蒼ちゃんが男なのだと自覚してしまう。


たまに蒼ちゃんはあんなことを天然で照れもせず白昼堂々と言うのだ。いくら見た目が可愛くてあたしにそんなことをしてくることはないとわかっていても、やっぱり少しだけ意識してしまう。


特に、昌人に振られたあの夜の蒼ちゃんを見てからは。


蒼ちゃんの中の『男』を垣間見てしまった気がする。あれを見せられて意識しない方がおかしい。


蒼ちゃんがあたしと同性と思ったことは当然だけど一度もない。でも、大学生になった今ですら可愛い見た目と女心をわかってしまう中身を見てしまえば、本当に女友達なんじゃないかと騙されかける時もあった。


でも、やっぱり男友達だなあと思う。


親友みたいな感じだけど、そこにはちゃんと『異性』みたいな薄い隔たりがある。決して悪いことではなくて、プライベートゾーンみたいなものだ。