泣くかなと思ったけど、あたしは泣かなかった。


涙腺はこういう必要な場面では緩んでくれない。不要な場面ならいくらでも崩壊するのに。


涙の一つくらい見せれば、『最後』の演出として最高なのに。ほんと、使えない。


蒼ちゃんはきっと大事なものが多過ぎた。優しいから、どれもこれも大事だと思って手放せない。


そのうち犯罪に巻き込まれるよ、蒼ちゃん。


蒼ちゃんが悪いのではない。誰も悪くない。大事なのだと思ってそれを抱える人を、誰が責められようか。


現状を壊すことは誰でも怖い。それが心地よいと思っているのなら尚更だ。


あたしだって本当は嫌だ。嫌だからずっと目を背けてきた。蒼ちゃんの変化には最初から気づいていた。それが何かはわからないにしろ、嫌な予感はしていた。


現状を壊す勇気も覚悟もなかった。だから今まで黙って抱かれてきた。それでいいと自分に言い聞かせて。


誰も悪くない。ただ、あたしに覚悟ができただけだ。


鳴海さんが、あたしの背を押してくれた。


あたしは、不要品になる。