少女達は夢に見た。

「あぁあ~…」


ひとしきり笑い終えると、柚奈は溜め息のような、情けない声を出した。

まるで、急に現実に引き戻されたみたいだ。


私も一緒に現実に引き戻される。


さっきまでの楽しかった気分が冷めていく。


「どうしたの?」


何を考えたのかは分かってるけど。


「いや。あと一週間か~って思ってさ。」


ほら。


「柚奈もロマンチストだよね。」


「え。」


「誕生日プレゼントが告白、なんて。」


やっぱり。


好きな人のことを思い出したんだ。


柚奈に好きな人がいると知ってしまってから約一ヶ月。


ちょうど一週間後には、彼の誕生日。


柚奈はその日に告白をするつもりなのだ。


「ち、ちがうよ!だって、バレンタインデーまで待てないし…どうせなら、何か特別な日に言った方がいいかなって思って…。そんなつもりじゃないもん。」


「…そうだったね。」


本気で言った訳じゃないって、普通に考えればわかるのに。


そんなに必死になんないでよ。


柚奈がどれだけ彼のことを好きなのか、もう十分すぎるほど分かっている。


だから、形だけでも、柚奈のことを応援しようと決めたのだ。


心では、そんなこと思ってなどない。


思えなかった。


それでも、彼女の笑顔を見るために、こうやって側に居続ける。


「だいたい、『…で?』って何よ。そんなこと言うような人じゃないもん。」


ちょっとふてくされたように頬を膨らませる。


可愛いな。


「ほら、『好きです』だけ言っても相手は返事しずらいかもしれないでしょ。」


「う…。」


もちろん、そんな理由は今考えたけど。

適当に考えた理由にも反論できない柚奈を、ちょっとあわれむ。


「せっかく告白したのに、返事もらえなくて、もう一回…なんて、嫌でしょ?」


さらに適当な理由をくっ付ける。


もちろん柚奈は私の気持ちを疑いもしない。


鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてから、


「そんなことまで考えてたんだ~。一瑠、ありがとう。」


そう言って抱きついてきた。


低伸長のわりにはある胸が、ぐいっと押し付けられる。


心なしか、柚奈の体温がいつもより高いような気もした。


「ホントにありがとね。」


私の肩にうずめていた顔を離し、いい笑顔を向ける。


ここまで単純だと、騙している方も、良心が痛むってもんだ。


「ああ。」


適当に返事をする。


これ以上からかう気にもならない。


「もう一回やる?」


はやく話を変えてほしくて、私は柚奈にそう提案した。


「もういいよ。」


半分笑ってかえす。


抱きついたままで。


「なんだ、面白かったのに。」


無意識に出た言葉。


柚奈に構ってもらいたかったのかもしれない。


沈黙3秒。


柚奈?


どうして反応しないんだろう。


顔を除きこもうとした…その時―


ゴンッ


鈍い音がした。


「いっっった~!何すんの!?」


額がじんじんする。


軽く擦っても気休めにすらならない。


「やっぱりからかってたんじゃん!!」


私の腰にまわっていた手を離す。


だからといって…


「暴力はんた~い…。」

さっきと同じセリフを繰り返した。


痛みのあまり、情けない声になる。


「あたしの石頭をなめるなよ?」


いわゆる頭突きをされたのである。


しかも体を固定されたまま。