“友紀ちゃん”なんて呼ばないくせに。
「あ、訊きたいことがあるんだけどさ。」
「なに?」
パッと明るくなる柚奈の顔に、それ以上機嫌を悪くしそうな話題を引き留める気にはなれなかった。
いつもの柚奈につい安心してしまう。
「一瑠って好きな人いる?」
からかうとか、そんなんじゃなくて、普通な顔して訊いてきた。
「それ、前も訊いたよね?」
「そうだっけ?」
……まだ柚奈が風見君のことを好きだったときに。
わざわざ思い出させるのも悪いから引き下がるけど。
「別にいないよ」
ちょっと無愛想に、だけど素直に答えた。
「そっか、よかった。」
なにが“よかった”?
馬鹿にされたような気分になったけど、それを言った柚奈の顔は全く嫌味っぽくなかった。
無邪気で素敵な笑顔。
怒れるわけがない。
「たぶんこの先もできないと思うよ。」
喜ぶかと思ったけど、逆に柚奈は押し黙った。
何を考えてるんだろう。
「例えば誰かに告白されたとしたら、付き合う?」
「え?……柚奈は?」
いきなり質問がふられて、つい質問で返してしまった。
「“あなたのことは好きじゃないから無理です!”…って言う。」
真っ直ぐだなぁ……。
そんなに自信満々に答えられても、良いことなのか分からないけど。
じゃあ当分柚奈に彼氏ができる心配はないか。
安心安心。
「一瑠は?」
「友達からお願いします……かな。」
「無難だね。」
あなたは自分から訊いてきたわりには興味がないって感じだね。
なにがしたいんだかよく分からない。
むしろ目的がないから逆につかめないのかな。
椅子を軽く引いて座り直した。
「じゃあお勉強を再開しますか。」
「なんでそうなるの……。」
「次のテストは目標25点ね!」
勉強くらい、目的と目標を持ってもらわないと困るんだよ。
勇気づけたつもりだったけど、蛙の断末魔みたいな声を出した。
そんなに嫌かな。
途中何度も唸ったけど、私が休憩をかけることはもうなかった。
柚奈が帰ったあとの部屋は、異様に静かで、なんだか子供みたいにさびしくなる。
そうだ、借りた本読まなきゃ。
カバーがかかった本ばかりの棚の中、目立つ灰色の背表紙。
その奥に日記が入っているけど、今は手にしたくない。
読み進めてみれば、そこはさすが細川奈津子さん。
以前柚奈から詳しく説明を受けた冒頭から引き込まれていく。
あのときの柚奈が話したあらすじの下手さを思い出して、なんだか愛しく思える。
栞を挟むタイミングを逃しに逃して、結局夕飯までずっと読んでいた。
「あ、訊きたいことがあるんだけどさ。」
「なに?」
パッと明るくなる柚奈の顔に、それ以上機嫌を悪くしそうな話題を引き留める気にはなれなかった。
いつもの柚奈につい安心してしまう。
「一瑠って好きな人いる?」
からかうとか、そんなんじゃなくて、普通な顔して訊いてきた。
「それ、前も訊いたよね?」
「そうだっけ?」
……まだ柚奈が風見君のことを好きだったときに。
わざわざ思い出させるのも悪いから引き下がるけど。
「別にいないよ」
ちょっと無愛想に、だけど素直に答えた。
「そっか、よかった。」
なにが“よかった”?
馬鹿にされたような気分になったけど、それを言った柚奈の顔は全く嫌味っぽくなかった。
無邪気で素敵な笑顔。
怒れるわけがない。
「たぶんこの先もできないと思うよ。」
喜ぶかと思ったけど、逆に柚奈は押し黙った。
何を考えてるんだろう。
「例えば誰かに告白されたとしたら、付き合う?」
「え?……柚奈は?」
いきなり質問がふられて、つい質問で返してしまった。
「“あなたのことは好きじゃないから無理です!”…って言う。」
真っ直ぐだなぁ……。
そんなに自信満々に答えられても、良いことなのか分からないけど。
じゃあ当分柚奈に彼氏ができる心配はないか。
安心安心。
「一瑠は?」
「友達からお願いします……かな。」
「無難だね。」
あなたは自分から訊いてきたわりには興味がないって感じだね。
なにがしたいんだかよく分からない。
むしろ目的がないから逆につかめないのかな。
椅子を軽く引いて座り直した。
「じゃあお勉強を再開しますか。」
「なんでそうなるの……。」
「次のテストは目標25点ね!」
勉強くらい、目的と目標を持ってもらわないと困るんだよ。
勇気づけたつもりだったけど、蛙の断末魔みたいな声を出した。
そんなに嫌かな。
途中何度も唸ったけど、私が休憩をかけることはもうなかった。
柚奈が帰ったあとの部屋は、異様に静かで、なんだか子供みたいにさびしくなる。
そうだ、借りた本読まなきゃ。
カバーがかかった本ばかりの棚の中、目立つ灰色の背表紙。
その奥に日記が入っているけど、今は手にしたくない。
読み進めてみれば、そこはさすが細川奈津子さん。
以前柚奈から詳しく説明を受けた冒頭から引き込まれていく。
あのときの柚奈が話したあらすじの下手さを思い出して、なんだか愛しく思える。
栞を挟むタイミングを逃しに逃して、結局夕飯までずっと読んでいた。



