「席替えしたい。」
授業が終わったなり私の席にやって来た柚奈は、ふとそんなことを呟いた。
アキと歩乃香は給食当番だから、今はいない。
たぶんアキたちのほうを向いているつもりなんだろう。
視線は教室の戸の先にある。
「どうしたの、急に。」
手を洗うために水道へ向かう私の後ろを、柚奈はついてきた。
「急じゃないよ。」
蛇口の水は音を立て、流れる。
何製かは分からないけど、美術室と違ってスレンレスじゃないからあの鈍い音は立たない。
「ずっと思ってたんだけどさ。」
夏にこの水は生ぬるい。
冬は冷たいのに。
どうして逆になってくれないんだろう。
「なんであたしはくじ運がないんだろう。」
生ぬるい水は、喉に流し込んでも不快感が残るだけで、まだ私の口に含まれていた水は、うがいということにして吐き出した。
「全然一瑠と近くの席になれないんだもん。」
きっちり泡をたて、手首まで念入りに洗う私の横、柚奈は蛇口を捻ってすらいなかった。
「アキは、毎回歩乃香か一瑠と近い席なのに。」
生ぬるい水も出し続ければ少しだけ冷えた水が出てきた。
手についた泡を流し落とす。
「なんか、ずるい。」
蛇口を捻って、ハンドタオルでふく。
そこでやっと柚奈の目を見て、
それから、自分なりに微笑んでみた。
「別にいいじゃん。同じクラスなんだし。」
自分がどんな顔をしていたのかは分からないけど、もし柚奈の顔が私の鏡だったら……
だとしたら
最高。
「一瑠!!」
なにかを持って教室に入ってきた柚奈は、私の名前を叫んだ。
放課後の教室。
私達の他に、まだ残っていた数名が少しだけ迷惑そうな顔をしてこちらを向いた。
「なんか課題もらっちゃった……!」
ぴくぴく口角をひきつらせて笑う柚奈の手に、A4の紙数枚。
数学の課題?
「でもまだ採点終わってないよね?」
赤点だったとしても、今日やったテストの採点がもう終わっていなければ話が合わない。
いくら一クラス分だとしても、そんなに早く?
「ほとんど白紙だったんだけどさ。」
のんきに笑った。
なら納得だ。
「ということで、教えてください!」
合掌のポーズをとった手を頭の上まで高く上げた。
……全く。
「仕方ないなぁ。」
敵わない、柚奈には。
「“どうるいこう”ってなに?」
プリントを拡げてから10分ほど経った。
いまだ教室にはクラスメートが残っているが、さっきよりは減った。
柚奈、中学入るまでは、そこまでお馬鹿さんじゃなかったはずなんだけど…。
あれれ?おかしいな。
そんなことで悩むのはお節介。
わかってはいるが、不思議だ。
「あれ?そういえば、今日って何曜日だったっけ?」
それはあまりに突然に
「え?木曜?」
ちがう
「水曜日だよね…?」
突然というにはいささか卑怯なくらいに。
馬鹿か私は。
「今日、部活……だよね?」
「あ、そうだね。」
当然か当たり前か。
軽く流すように頷いた柚奈。
なんてことだ。
「………忘れてた!!」
今日は、部活があったじゃないか。
授業が終わったなり私の席にやって来た柚奈は、ふとそんなことを呟いた。
アキと歩乃香は給食当番だから、今はいない。
たぶんアキたちのほうを向いているつもりなんだろう。
視線は教室の戸の先にある。
「どうしたの、急に。」
手を洗うために水道へ向かう私の後ろを、柚奈はついてきた。
「急じゃないよ。」
蛇口の水は音を立て、流れる。
何製かは分からないけど、美術室と違ってスレンレスじゃないからあの鈍い音は立たない。
「ずっと思ってたんだけどさ。」
夏にこの水は生ぬるい。
冬は冷たいのに。
どうして逆になってくれないんだろう。
「なんであたしはくじ運がないんだろう。」
生ぬるい水は、喉に流し込んでも不快感が残るだけで、まだ私の口に含まれていた水は、うがいということにして吐き出した。
「全然一瑠と近くの席になれないんだもん。」
きっちり泡をたて、手首まで念入りに洗う私の横、柚奈は蛇口を捻ってすらいなかった。
「アキは、毎回歩乃香か一瑠と近い席なのに。」
生ぬるい水も出し続ければ少しだけ冷えた水が出てきた。
手についた泡を流し落とす。
「なんか、ずるい。」
蛇口を捻って、ハンドタオルでふく。
そこでやっと柚奈の目を見て、
それから、自分なりに微笑んでみた。
「別にいいじゃん。同じクラスなんだし。」
自分がどんな顔をしていたのかは分からないけど、もし柚奈の顔が私の鏡だったら……
だとしたら
最高。
「一瑠!!」
なにかを持って教室に入ってきた柚奈は、私の名前を叫んだ。
放課後の教室。
私達の他に、まだ残っていた数名が少しだけ迷惑そうな顔をしてこちらを向いた。
「なんか課題もらっちゃった……!」
ぴくぴく口角をひきつらせて笑う柚奈の手に、A4の紙数枚。
数学の課題?
「でもまだ採点終わってないよね?」
赤点だったとしても、今日やったテストの採点がもう終わっていなければ話が合わない。
いくら一クラス分だとしても、そんなに早く?
「ほとんど白紙だったんだけどさ。」
のんきに笑った。
なら納得だ。
「ということで、教えてください!」
合掌のポーズをとった手を頭の上まで高く上げた。
……全く。
「仕方ないなぁ。」
敵わない、柚奈には。
「“どうるいこう”ってなに?」
プリントを拡げてから10分ほど経った。
いまだ教室にはクラスメートが残っているが、さっきよりは減った。
柚奈、中学入るまでは、そこまでお馬鹿さんじゃなかったはずなんだけど…。
あれれ?おかしいな。
そんなことで悩むのはお節介。
わかってはいるが、不思議だ。
「あれ?そういえば、今日って何曜日だったっけ?」
それはあまりに突然に
「え?木曜?」
ちがう
「水曜日だよね…?」
突然というにはいささか卑怯なくらいに。
馬鹿か私は。
「今日、部活……だよね?」
「あ、そうだね。」
当然か当たり前か。
軽く流すように頷いた柚奈。
なんてことだ。
「………忘れてた!!」
今日は、部活があったじゃないか。



