みんなの視線が集まり、歩乃香は恥ずかしくなったようで、うつ向く。


「ど、ドラマの主題歌とか…かな」


「ドラマ!」


歩乃香の答えに食い付いたのは、柚奈だった。


ロッカーによりかかっていたのを、ずいっと起こす。


「うん、夕美ちゃんの出てるのとか」


歩乃香は少し遠慮気味に答える。


軽く握った左手を、胸に当てて


顎がひきぎみだから、上目使いになって。


女子力……


一方アキは、ドラマの話には興味がないようで。

ロッカーの上に足を組んで座り、窓の景色を楽しんでいた。


窓が開いているため、入ってくる風に、赤みがかったショートヘアがなびく。


左手は右膝に垂れるようにして掛けていて、ドラマのワンシーンにありそうだ。


か、格好いいな…


アキと歩乃香はまるでま反対。


だけどすごく仲が良い。

私も…周りからみたらそう見えるのかな?


明るい柚奈と、私


ついでに髪も明るい


運動部の柚奈と、私


共通点が多いようで、意外と違う部分の方が多いのかもしれない。


もし幼馴染みじゃなかったら、どんな出会いかたをして、


どうやって仲良くなっただろうか


仲良くならなかったかもしれない。


盛り上がる柚奈と、歩乃香。


二人をよそに、ぼんやりと、そんなことを考えていた。


今日は、空が綺麗だ。


画になるアキの横顔。


その視線の先を追ってみれば、くじらのような形をした雲が泳いでいた。




カナンとは、あれから気まずくなることは無かった。


でも…


なにか、言葉にできない水の壁のようなものが出来上がっていた。


「いち、そういえば3送会の話だけどさ」


「ああ、まだまだでしょ?」


一見、前となにも変わらないように話しかけてくれてるようにも見える。

美術室。


真ん中の一番後ろの席。

三年生を送る会なんて、まだまだ先の話。


卒業制作だって全然終わってないみたいだし。


「まあそうなんだけどさ、友紀(ユキ)が出し物やるっていってるんだよ」


「友紀ちゃんが?」


カナンは今にも舌打ちをしそうな顔をしている。

友紀ちゃんか…


斉賀先輩が、次期部長にすると言っていたのだから、本当にそうなるのだろう。


「美術部で出し物とか…なにやるのかな」


「知らない。演劇やりたいとか言ってたけど?」

「え、ええええ!?」


出し物で演劇…


「無理でしょ」


「うん」


去年は手紙渡して終わりだったのに。


いやいや、無理!


そもそも皆が反対するだろうし。


「いちも、なにやるか考えておいてね」


「う、うん」


美術部で出し物か…