「それでね――」


やはり柚奈はバカだ。


おバカさんだ。


こう…


話の要点だけをまとめるっていうことがどうにも出来ていない。


ストップウォッチで計っていないから正確な時間はわからないけど、


よくしゃべる。


こんだけしゃべってるけど、実際には冒頭部分までしかいってないんだろう。


私は笑顔で相づちをうつ。


別にうんざりなどしていない。


むしろ楽しい。


なんというか、微笑ましいのだ。


一生懸命話している感じが。


それも自分の好きな作家さんの本の話を。


例えるなら子犬か。





「できるだけ早く読むよ」


ミリ単位のあらすじを話し終え、満足そうな笑みを浮かべた。


「別にいいのに、そんなに気にしなくて」


「ううん!だって一瑠と早く話がしたいんだもん!」


だめだ。


子犬にしか見えなくなってきた。


「ありがとう、柚奈」


軽く頭を撫でる。


さらさらだ…


心地よくて、手を離すのが惜しくなってしまう。

だけどすぐに、自分のしていることが恥ずかしくなり、


あわてて手をどけたから、きょとんとした顔をした。


アホ面。


なにか言おうか迷っていると、


おなじみの5時を示す鐘の音。


私にとってそれは楽しい時間の終わりと


イヤな時間の始まりを意味する。


ながらく帰宅の合図として使っていたからだ。


でも中学生となった今、門限が伸びたため、それを合図にすることはない。


しかしその音が示していることの意味に変わりはない。


楽しい時間の終わりが近づいている。


「ねぇ、日曜、暇?」


「え?うん…」


「アキたち誘ってさ、カラオケ!行こうよ」


柚奈が私のそんな気持ちを汲み取ってくれた気がして、嬉しかったよ。


「うん!!」





「と、言うわけだからさ、行きましょっさ!カラオケ!」


柚奈がぴょんと跳ねながら、アキと歩乃香を誘った。


「おう!いいじゃん、行こう行こう」


それにノリノリで応えるアキ。


まだ朝だというのに、元気だな。


クラスメートの目も気にせずとびまわる二人。


金曜だからテンションが高いのか。


だからって、教室で騒ぐな。


気付いてないだろうけど、斎藤さんの視線がいたいんだよ。


私が視線を送ってみたって、お構い無し。


「歩乃香は?」


すっかり柚奈のペースにハマってしまって、歩乃香の答えをまだ聞いていなかった。


「え?あー…うん、行こうかな」


「歩乃香ってなに歌うの?」


素朴な疑問。


とびはねていた二人も、こちらに顔をむけた。