「カナンの…みまちがいだから。」


それ以外、有り得ない。

「いち?顔青いよ。」


「好きじゃない。」


自分の手元を見たまま、ハッキリと言った。


「うん…。分かったよ。」


カナンも流石にこれ以上は無理だと諦めてくれた。


そのあと、二人で雑談しながら作業を進めたけど、カナンがその話題について触れることは二度と無かった。





いつも通りの時間に部活が終わる。


今日の無断欠席は5人。


16人中の5人なのだから
実に30%以上もの人がサボりだということになる。


そりゃあ、無断遅刻者をいちいち咎めたりするわけがない。


こんなんでいいのか。


美術部よ。


部長が溜め息をつきながら黒板を消し始める。


「最後に残った人は鍵かけてってねー。あと、返しにいってねー。」


やや投げやりな部長の呼び掛けに一斉に部員達が逃げるようにして帰っていく。


風見君に柚奈のことを聞こうかと思ったのに先に帰ってしまった。


まあ、聞くなら本人に聞いてからのほうがいいか。


美術室の鍵はいつも入口にかかっていて、基本的には部長が返しにいくことになってる。


「あ。溝口ちゃん、この間は鍵ありがとね。」


…はずなんだけど。


いつも片付けやらなんやらで帰るのが遅い私が部長に頼まれて返しにいくこともしばしば。


「あ、はい。斉賀部長。」


「あれ。斉賀、お前がいつも返してんじゃないの。」


話を聞いていた山吹先輩が尋ねた。


「当たり前じゃん。」


ふてぶてしく答える。


え。


部長?


いまサラッと嘘つきました?


少し背の高い斉賀部長を見上げる。


こんなに背が高いんだから、女子バレー部にでも入ればよかったのに。


「嘘だ。さっき話してたのはなんだったんだよ。マジで部員にやらせてたの?」


山吹先輩が部長に詰め寄る。


いつも思う。


山吹先輩は美人な顔と2つ結びの長いふわふわの髪と似合わず口が悪い、と。


「は?別にたまたまだし。なんでアンタにいわれなくちゃなんないの。」

負けじと言い返す部長。

たまたま…にしては頻度が多い気がするんですけど。


既に至近距離で睨み合う二人にそんなこと言えるはずもなく。


なんか険悪なムード。


「溝口ちゃん、こっち。」


困っていると、誰かに手を引かれた。


この滑らかで指の長い綺麗な手は…


「長岡先輩!」


「じゃなかった。…千尋先輩。」


先輩のうすら笑みに慌てて言い直した。


「あ、ありがとうございます。」


美術室から出るまで、手を引かれて。


ドアの前まで来て、手を放す。


「えーと…あの二人は、一体?」


部長と山吹先輩って、そんなに仲悪かったっけ。

口論してるのは何度か見たことあるけど。


私の問いに、千尋先輩は困ったような顔をした。

「ほっといたらあの二人、後輩の前でもイチャつきだすから。」


美術室の方を眺めながら言った。


意味が分からなくて、千尋先輩の顔を見ていると、こっそりと耳打ちしてきた。


「付き合ってるんだよ。あの二人。ケンカップルってやつ?」


ないしょね、と付け加える先輩に絶句した。


だって…


部長と山吹先輩は…


斉賀夏海(さいがなつみ)と山吹渚左(やまぶきなぎさ)は、


女同士。