例え彼が……


風見奏汰君が、親友をフッたであろう人物だとしても。


そう思うようにしながら、彼からゆっくりと視線をはずした。


用を済ませ、席に戻り製作を始める。


柚奈の唇から零れた名は“風見奏太”。


柚奈の好きな人は、風見君だった。


まさか、彼だったなんて、思いもしなかった。


もっと、浅間君じゃなくても、浅間君みたいな人なんだろうなと思ってたのに。


実際には風見君は浅間君と正反対。


大人しいし。


悪く言えば地味。


浅間君は柚奈よりおバカさんだけど


風見君は学年トップ10に入るくらい頭脳明晰。


運動神経は、浅間君の方が良い。


あとルックスも浅間君の方が良い。


それに、風見君はどちらかといえば大人しい女の子には人気があるけど、

バスケ部とか、斉藤組のような女の子達にはモテてない。


他の男子に比べて、柚奈と話してる所を見ることも少なかったし。


だから本当に、意外。


あ、そうか。


柚奈は前から風見君みたいな落ち着いた人がタイプだったんだ。


だから小学生の時には、好きな人がいなかった。

まわりにそんな男子はいなかったから。


ただ、それだけのことだったんだ。


柚奈を決めつけていたのは、私も同じだった。


私が散々嫌っていた、あの人達と同じ……。


“柚奈”って人間像から、勝手に好きになりそうな人まで決めつけて。


風見君は、柚奈の告白になんて答えたんだろう。

作業を進める彼を見つめる。


また、彼と目が合った。

慌ててそらす。


「ねぇ、いち。」


「え。」


カナンの言葉に振り向いた。


「なに?」


「いちって…風見のこと好きなの?」


唐突な質問。


本人はいたって真面目な顔。


「……はあ!?」


折角カナンが小声で聞いてきてくれたのに、つい大きな声を出してしまった。


部員の迷惑そうな視線が集まる。


クスクス笑ってる人もいた。


恥ずかしくって、申し訳なくて、席を立って一礼した。


「す、すいません。気にしないで下さい。」


席につくとカナンが面白そうなニヤケ顔で私の顔を除きこむ。


「珍しいね。いちがこんなに動揺するなんて。」

まずい。


これは図星だと勘違いされた。


「断じて違いますそんなわけありませんから有り得ないです意味わかりません。」


一息でそこまで言っても、カナンのニヤケ顔を直すことは出来なかった。

「いちって動揺すると敬語になるんだね。ついでに饒舌(じょうぜつ)になる。」


「う、うるさい。本当に違うから。信じて。」


懇願(こんがん)するような瞳で訴えかけたのに信じてはいない様子だった。


大体なんでよりにもよって風見君なんだ。


それは柚奈の好きな人だってば。


「えー?」


「な、なによ。」


焦らすようにためて、


「前々から良い雰囲気だなーって思ってたんだけどな。」


チラッと横目でこちらの反応を確かめるカナンの目がわざとらしすぎて、寒気がした。


今6月なのに……。


って、嘘でしょ?


私と風見君が……なんて。