少女達は夢に見た。

もしかして、全部私の被害妄想で、柚奈は何も思ってないのでは。


そんな考えも過った。


柚奈と二人になったとして、何を言えばいいんだろう。


“今日避けられてる気がするんだけど。”


これは…避けられてることが勘違いだったらかなり恥ずかしい。


それに印象悪い。


“どうして今日斉藤組にいるの。”


これも、ダメだな。


なおのこと印象が悪い。

何か良い聞き方がないか考えて。


答えがちらついた。


“告白、どうだったの。”


一番最初の根本的疑問。

多分、柚奈の態度がおかしいのは、その結果が原因。


それしか思い付かない。

だけど、つまり。


それは告白の結果が良くなかったということだ。

おそらく、フラれた。


もうここまで分かっているのに、告白した本人にそれを聞いてしまってもいいのだろうか。


そこまで考えついて、ハッとした。


もし好きな人を知っていたなら、その人に問い詰めることができたのに。

いや、まてよ。


分かるかもしれない。


このクラスで、柚奈と同じ塾の男子なんて限られている。


…やっぱりダメだ。


その人に聞いた所で、どうしようもない。


柚奈が私を…アキと歩乃香もか。


私達を遠ざける理由に直接繋がるような答えが来るはずもない。


ただフラれた八つ当たりをしているだけだったら楽なんだけど。


「起立。」


考え事をしていたせいで反応が遅れた。


うそ、もう帰りの会終わったの?


…行くしかない!


「さようなら。」の声が聞こえて、返すと同時に席から駆けた。


案の定、柚奈は部活に行こうと、もう席を離れていた。


いつもは挨拶終えてから帰りの支度しだすくせに。


「柚奈っ、待って。」


人が見ているにも関わらず、そういって後ろから肩を掴んだ。


視線が掴んだ手に落とされる。


「なに。」


舐めあげるようにして、掴んだ手から私の目へと視線を動かす。


あきらかに不機嫌そうな低い声。


なにって…。


そっちこそ、いきなり何なのよ。


歯をくいしばって柚奈の目を真っ直ぐに見つめる。


かすかに、柚奈の瞳が揺らいだ。


「どうしたの……柚奈。」

そんな言葉しか、出てこなかった。


「どうもしてない。」


嘘つき。


その証拠に、また視線を掴んでいる手へと移す。

「…もう部活行くから。」


離して、と言って私の手を振り払い、背を向ける。


「誰よ。」


私の言葉に柚奈の背中は小さく反応した。


「誰だったの……。」


うつ向きながら問う。


柚奈を傷つけたヤツは、誰。


なにも言わない柚奈に、私は恐る恐る顔をあげ、反応を伺う。


少し間をおかせて。


振り返らずに、ゆっくりと30度だけ首を動かし、柚奈の唇からその名が零れ落ちた。


その名前を確かに捉えた私を確認して、柚奈は教室から出て行った。


私の見開いた目は、柚奈の背中、そして柚奈が出ていったドア、


その一点だけを、いつまでも視界に捕らえて続けていた。