少女達は夢に見た。

1時間目が始まる前までの間に柚奈が話しかけてくることは無かった。


1時間目は国語。


国語の授業は好き。


先生もユニークな人だし。


いつも可笑しな冗談を言う。


でも、私は……



クラスの皆が笑っていても、私だけは、笑えなかった。


内容は聞き流しながら、他のことを考える。


そんな感じで1時間目が終わった。


挨拶をして、着席。


「ぐぇ。」


カエルのような声が出た。


突然、アキが後ろから首を絞めてきたからだ。


冗談のつもりなのだろうが、本当に絞まってる。

絞まってるよ!?


それを訴えようと手前にある腕を掴む。


「いきなり何すんのよ……。」


苦しみに悶えながらも、私が凄むように言うと、やっと離してくれた。


「だって、いっちーがなんか暗かったから。」


歯を見せて笑う。


そんなに暗かったかな。

だからって首を締めなくても…。


でも、気づけば先程まで固まっていた私の表情は和らいでいた。


「…ありがとね。」


呟いた私の言葉に、意外そうな顔をしてから、満足気に笑った。


イスから立ち上がり、アキに向き直る。


不思議そうな顔でまばたきを2回。


私はニコニコしながら迫る。


そして、


「な、なにすんの…ぐぇ、がっ。」


思いっきり締め上げた。

死なれても困るのですぐに手を離す。


「いっちー…。」


「ははははは。」


恨めしそうに睨んでくる アキを笑ってかわす。


よし、やり返してやったぜ。


怖い顔をしたアキはすぐに吹き出した。


自分の出した声にウケたようだ。


ちょっと周りの目が気になる。


「…。」


頭の中で、あ、と声を漏らした。


「いっちー?どうかした。」


「ううん。」


今、柚奈がこっちを見てたような気がした。


柚奈は、斉藤組と仲良さげに話してる。


斉藤さんは、柚奈のことをよく思ってなかったはずたけど。


本当に楽しげだ。


これだから女子というものは怖い。


肩をすくめた。


そのあとの時間。


社会、数学、英語の授業が終わっても、柚奈が話しかけてくることは無かった。


アキにも、歩乃香にも。

柚奈が話しかけることは無かった。


アキ達はあまり気にしてないようだけど。


それに、ずっと斉藤組といるせいで、私から話しかけることも出来なかった。


帰りの会までその調子で、私は参っていた。


今まで、学校に来ているにも関わらず、こんなに接触しなかったことはない。


柚奈とは喧嘩らしい喧嘩なんてあまりしたことがなかったし。


だから余計にどうしたらいいのか分からなくて。

だけど、話を聞くなら今日しかないのは目に見えていた。


今日は金曜日だから部活があるし、ここで逃したら休み明けまで持ち越しだ。


そんなのは絶対ごめん。

帰りの会終了直後にどうやって柚奈と2人になるか、問題はそこだ。


1人悶々と考える。


そんな私は、はたからみれば具合の悪い人に見えたかもしれない。