「ちょっと、ぼくの時と随分差があるんだね。歩乃香。」


アキは納得いかないといった様子で歩乃香に詰めよった。


「ほら、女の子なのに『ぼく』とか言わないの。」


子供に言い聞かせるように言うから、アキはなんとも言えない表情をした。


「一瑠?早く帰ろうよ。」


先に教室を出て、待っていた柚奈がドアから顔をだした。


「あ、うん。いまいく。…じゃあね、二人とも。」


柚奈のもとに急いだ。


「一瑠、今日変だったの?」


歩乃香が言ったことが気になったのだろう。


顔をこちらに向けぬまま、柚奈は聞いてきた。


そういうことは本人に聞くもんじゃないと思うけど。


単純に、気にしてくれたことが嬉しかった。


「そんなことないよ。」

嘘だ。


あきらかに今日の私はおかしかった。


「だよね。歩乃香、変なの。」


そう言って、安心するかのように笑った。


どうして、歩乃香はそんなことを言い出した?


歩乃香は、なんで気づいてくれた?


気遣いできる歩乃香に、柚奈は焦ったとでもいうのだろうか。


自意識過剰な思考回路に、笑えた。


「落ち着きがなかったのは、柚奈だよね。」


その言葉に、少し前を歩いていた柚奈が勢いよく振り返る。


「そんなこと考えて見てきてたのかー!?」


「え。」


驚きのあまり、変な声が出そうになった。


うそ…。


気付かれてた。


柚奈が悪戯っぽく笑って近づいてきた。


あ、今の表情良い。


「なんで今日ずっと見てたの?」


下から覗きこむようにするから、半歩後ずさった。


いつも通りはぐらかして、逆に煽ってやろうとした。


けど。


私は自嘲するように笑って。


そんな私を柚奈が不思議そうに見る。


反応が単純すぎ。


にやけそうになるのをぐっと堪えて、歩き出しながら語る。


「今日…柚奈が告白してね、」


私の後を柚奈が追いかける。


「それで、付き合ったりするのがね、寂しいかな…なんて、ね。」


振り返ってみると、柚奈は複雑な顔をしていた。

さあ、なんて言うのかな。


柚奈の本音が聞きたかった。


こんな風に思ってしまう私のこと、気持ち悪いって思いますか。


緊張気味に返答を待って。


柚奈が、笑った。


私の右目が、ぴくりと痙攣した。


これが…柚奈の笑顔?


「一瑠って、意外と可愛い所があるんだね。」


また、悪戯っぽく笑う。

だけど、さっきの柚奈の笑顔が焼き付いて離れない。


あんな笑い方、柚奈はしない。


あんな…。


辛そうな作り笑顔。


ねぇ、なに考えてたの。

柚奈が私をからかう言葉を並べる。


私は、それを全部かわして、からかい返す。


笑顔で。


本当は聞きたいのに。


いつも通りのやり取りに安心して。


それに触れることに、逃げた。


目の前の幸せを壊したくなくて。


「素直になれば、可愛いのにさー、一瑠も。」


「柚奈が私をからかうなんて、できるわけないでしょ。バカなんだから。」


「一瑠そんなんだから友達少ないんだぜぇ?」


「るさい、ちょろ吉。」

二人で帰った。