30分位恵瑠の部屋で勉強を教える。


すぐ隣は私の部屋だ。


勉強の方が一段落ついて、ちょっと休憩していると、玄関のドアが開く音がした。


「お母さん、帰ってきたみたいね。」


恵瑠に声をかける。


「ただいま~。」


階下で声がした。


お出迎えのために、私達は部屋を出て、階段を降りる。


「おかえり、お母さん。」


恵瑠のに続いて私も。


「お帰りなさい。」


「ただいま、二人とも。ごめんね、遅くなっちゃって。」


急いで帰ってきたのだろう。


いつも整っている焦げ茶色の長い髪が、ぼさぼさに乱れている。


キッチンに向かうお母さんの背中を追う。


「いいよ。今日仕事だったの?」


出来るだけ気を使わせたくなくてそう言った。


「うん、なんか今日急に来れなくなったって娘(こ)がいて…夕飯までには帰れると思ったんだけど。」

少し息があがっている。

私の両親が共働きになったのは今年の4月から。


恵瑠も高学年になったから、大丈夫でしょうということで。


小さい頃は一緒にいてあげたいという母なりの気づかいからだ。


恵瑠も素直なこになってくれたのもお母さんおかげと言うことか。


お母さんは私に笑顔を向けると、持っていた2つの重そうなエコバックをドサり、とキッチンカウンターの上に置いた。


「ごめーん、夕飯レトルトのでいい?」


レトルトカレー…。


「ご飯炊けてないよー?」


ふいに、恵瑠がリビングのソファからキッチンに声をかけてきた。


…キッチンといっても、リビングの中にある感じで、カウンターで仕切られいるだけだ。


で、その手前にダイニングテーブルがある。


弟は早速テレビをつけて何か見ているようだ。


ご飯が炊けてないって知ってるってことは炊飯器の中を覗いたってことか。


言葉ではあんなこと言ってたけど、相当お腹空いてたんだろうな…。


なんか恵瑠が可哀想になってきた。


「あー。じゃあ、冷凍しといたやつを解凍して使うか。」


えー。


ラップにくるまれた冷凍ご飯…。


あれちょっとお米がごわごわしてるから嫌なんだけど。


まあ、いいや。


姉ばっかり文句言う訳にもいかないしね。


「お母さん、手伝うよ。」


「ありがとね。」





レトルトを暖め終えて、サラダを盛り付けて…キャベツときゅうり、コーンとツナを混ぜただけのサラダだけど…。


冷凍ご飯も解凍して。


お皿にカレーを盛り付け始めた所でお父さんが帰ってきた。


「ただーいまー。」


それぞれに「お帰り」を言う。


「お父さん、ごめん、今日レトルトだから。」


お母さんの言葉にあからさまに嫌な顔をする。


「じゃあ、風呂入ってくる。」


ちょっと機嫌を悪くしたようだ。


仕方ないな、と、笑うお母さん。


仕事帰りなのはお父さんだけじゃないのに。


なんだか、恵瑠の方が、お父さんよりも大人びているように見えてきた。

別にお父さんのことが嫌いな訳じゃないけど。


恵瑠の方を見る。


ちょうど振り返えってきて、目があった。

やっぱり顔は幼い。


見ているのもアニメだった。


それがちょっと可笑しくて顔が緩んだ。


お父さんに嫌味を込めて、恵瑠に、


「もうちょっとでできるから、待っててね。」


と、笑いかけた。