「自業自得じゃん?」


得意気な顔をして腕を組んでみせる柚奈。


自然と顔がほころんだ。

私がクスりと笑うと、柚奈も笑ってくれる。


この時間が大好きだ。


大人になんてならないで、ずっとこのままでいて欲しい。


口に出したら柚奈はどんな反応をするだろう。


笑って「そうだね。」って、言ってくれるだろうか。


…そうだったらいいな。

そんなことを思いながら、太陽が沈んでいっている窓の方を見つめた。





あれからしばらく雑談して、いつもの信号で別れた。


もちろん、3回くらい青信号を見送ってから。


そこから5分位歩いた所に我が家がある。


柚奈の家はさらに10分位歩いた所。


小学生のときは一緒に帰ることが出来なかった。

なぜなら帰り道が正門と裏門で別れていたから。

よく、帰り際、柚奈と帰る友達達をうらめしく思ったっけ。


だから、正門からしか出られない中学になって、短い距離でも柚奈と一緒に帰れることが嬉しい。

些細なことだけど。


家に着いたときのテンションも上がるってもんだ。


「ただいま~!」


声のトーンも自然と高くなる。


トタトタトタ…


奥のリビングから可愛らしい足音が近づいてきて、


「おかえり!お姉ちゃん!!」


「ただいま、恵瑠」


もう一度「ただいま」を言うと、良い笑顔を向ける。


弟の恵瑠(めぐる)。


11にもなって素直なままの可愛い弟だ。


最近の小学5年生はもうちょっとませているらしい。


「あれ。お母さん、まだ帰ってきてないの。」


「あ、うん。」


少しうつむく。


あ、そうか。


自分より頭一個分くらい低い位地にある恵瑠の頭を軽く撫でる。


私と同じ黒髪。


もふもふしてる。


2回ポンポンと叩いて、そのまま横をすり抜ける。


「ちょ!オレ、寂しがってなんかないからな!?」


背中で恵瑠の声がする。

その声は無視して、リビングに向かう。


時間を確かめるためだ。

恵瑠はなにも言わずに追いかけてきた。


「6時半、か…。」


まだ夕飯、何も準備してないようだし…


「恵瑠お腹空いてるよね。」


振り替えって確認してみた。


「ちょっと空いた…。」

遠慮気味に言う。


そりゃそうか…。


「ごめん。お母さんもうすぐ帰ってくると思うから待ってて。」


「うん。」


始めからそのつもりだったらしく、特に不満な顔もしない。


気を使ってくれているのだろうか。


「ねぇ、ちょっといい?」


「ん?」


ちょっといいずらそうだ。


「教えて欲しいとこがあるんだけどさ、いい?」

勉強か。


偉いな~。


「もちろん。じゃあ、2階行こう。」


恵瑠の顔がパアっと晴れる。


「ありがと。」


恵瑠が先に駆け出す。


…恵瑠は彼女とかいないのかな。


そんな影をチラッとも見せない。


好きな人とかいないのかな?


階段を登る背中を見つめながら、ふと思った。


自分の弟にこんなことを言うのもどうかと思うけど…。


美人なお母さん似の恵瑠は、結構可愛い顔をしてる。


まだ子供っぽい弟も、いつか彼女ができて…なんてと思うと寂しくなった。


なんか、最近こんなことを思ってばっかだな。


自嘲気味に笑った。