第1ペアの試合は大方の予想に反する展開で進んでいた。

翔太はベンチに座り険しい顔で試合の流れを見つめている。

変わって八尾の態度はいっぺんとして変わらない。

その時、匠の精密にコントロールされた打球が相手後衛のバックに跳ね上がる。

「ああいう打ち下ろさなきゃならない打球って本当に打ちずらいんだよな」

「しかもベースラインぎりぎりのバック側、中原も可愛そうに」

幸大附の応援をする部員がフェンスの裏で小さくそうこぼしていた。

中原は必死にボールを捕らえたがゆるやかな放物線を描いた打球はネット上空で失速して落ちていく。

そのチャンスを幸助は逃さなかった。

「よっしゃ頂きぃ!」

左端から右端の落下地点まで走り込み、ラケットを高々と上げる。

そして腕を伸ばした最高打点でボールを捕らえると、相手の二人の間を斜めに切り裂いてスマッシュが後方のネットを揺らした。

「ゲームカウント2-0、チェンジサービス」

斎藤はボールを幸助に渡す。

軟式テニスのサーブは1ゲーム毎に自軍と敵軍とで交代する。

硬式テニスはそのゲーム間サービスはペアの内の一人だけが打ち続けるが、軟式は2ポイント毎にペア間でサービスを交代する。

「まさかの2ゲーム先取、本当に勝っちまうんじゃないか?」

「・・・いや」

新入生が匠と幸助の勝利を思い描いていた頃、実際にコートで試合を行う2人と真平と翔太だけが気づいていた。

「匠先輩・・・」

「ああ、おそらく勝負はこれからだな」

利き手の問題もあったりするが、大体は前衛がネット付近で試合を始めるために後衛の選手が先にサービスを打つことが多い。

しかし幸助が構える。

「やっかいなサーブだな」

「ああ、でも・・・」