にわか雨で濡れた校庭。

埼玉県は晴れ。

新谷二中に翔太が転校してきて1週間が経過した。

「ねぇねぇ、三組の佐野くん見た?凄い格好良くない?」

「知ってるー。それにスポーツも出来るし頭も良いんだって」

「なにそれー。王子様みたいじゃない?」

17センチメートルを超える長身に甘いマスク、人当たりも良く、勉強、運動どれをとっても学年トップの成績。

そんな翔太が学校中で噂になるまでに時間はさほどかからなくて、今や翔太を知らない生徒など居ないほどだった。

「吉川さん。これ借りてた教科書。まさか転校してすぐに小テストがあるなんて思わなかったよ」

翔太は綺麗にマーカーの引かれた英語の教科書を吉川に返す。

「ははは。ついてなかったね。でも岡先生に聞いたけど小テスト満点だったの佐野くんと学級長だけだってよ。」

吉川はゆっくりと後ろの席を振り返える。

そこでは休み時間だと言うのに教科書を開いて勉強している男子生徒がいた。

いかにも勉強好きなイメージの少し伸びた髪、黒ぶちのメガネ、学ランはきっちりと第一ボタンまで閉められている。

「えっと、益子くんだったっけ彼?」

「うん1年の時からずっと学級長やってて、成績も常に一番なんだよ。この前の模試でも全国で100番以内に入ったらしい」

すると、自分の話をしていることに気付いたのか益子が翔太達の方を見た。

翔太が微笑むと、益子は何も返さずに机に向き直す。

それを見ていたアヤが小さな声で言う。

「ああいう所がなければ益子くんも良い人なんだけどなぁ」

ふぅ。とため息をついた吉川。

翔太が優しい声で言う。

「そうかな?

良いヤツだと思うけど」

そう笑う翔太をアヤが少し不思議そうに見ていた。