恐愛同級生


桜の体調が回復して登校するようになると教室での異臭騒ぎが起こることはなかった。

教室中がほこりまみれになることも、職員室まで誰がノートを取りに行くかで揉めることも。

それから少しして忘れ物を取りに教室に戻ると、そこには一人ぼんやりとカメの水槽を眺めている桜がいた。

『あっ、市川さん……まだ帰らないの?』

その当時、桜とはあまりしゃべったことがなかった。

桜の隣に移動して水槽に目をやると、そこにいるべきはずのカメの姿がなかった。

『あれ……?カメは……?』

『覗いたらぐったりしてたの。だから、生物の先生のところに連れて行った』

能面のように表情のない顔。

落ち込んだ声で淡々とそう言った。

『うそ……。この間まではすごく元気だったのに……』

『あたしが……ずっと休んでたから……。だからだ……。あたしのせいで病気になっちゃった……!』

桜はそう言うと、ぷつりと何かが切れてしまったのか全ての感情を吐き出す様に声を上げて泣き出した。