桜が流行性の病にかかり一週間ほど休んだ時、教室中は異臭に包まれていた。
まだ夏前だというのに、夏を思わせるような陽気が続いたせいで、カメの水槽にはこけが生え、腐りかけた餌からは異臭が漂っていた。
『くっせー、誰かカメの掃除しろよ』
『嫌だよ。めんどくさいし』
『市川が休むからこんなことになったんだよな~。俺絶対やりたくないし』
みんな一様に掃除をするのを嫌がり、押し付け合いが始まった。
『あたしがやる!』
この日、あたしは初めてカメの水槽の掃除をかってでた。
カメを別の場所に移してから水槽の掃除を行う。
手袋をつけていても、ぬるぬるとした指ざわりはとても気持ちの悪いものだった。
マスクをしていても食べ物が腐ったようなすえた独特な匂いが鼻に届き何度も込み上げてくるものを飲み込む。
正直、カメの水槽の掃除は思った以上に大変だった。
もう二度とやりたくないとすら思った。
その大変な掃除を、桜は誰にも文句を言わずにいつも一人でやっていたのだ。
「偉いなぁ……。市川さん」
桜に対しての見方が変わった瞬間だった。



