自分が自分でなくなっていくような感覚が全身を包み込む。

どんなに速く足を進めようとしても、体がいうことを聞いてくれない。

数十メートル歩いただけなのに、ハァハァと荒くなる息。

何とかあと少しで階段までたどり着くという時、前から見覚えのある人物が歩いてきたのに気が付いた。

それは今、翔と同じぐらい会いたくない人物だった。

こんなタイミングで鉢合わせになってしまうなんて……!!

ハッとして慌ててきびすを返そうとすると、


「……――莉乃」

その人物はあたしに気付いて、口の端をクイッと持ち上げて笑った。

その途端、全身が凍りついてしまったかのように動けなくなった。

相手はゆっくりとした足取りでこちらへ歩み寄ってくる。