「で、何か用でもあるのか?お前が寄り道しよう、なんて珍しいけど」
「たまには、友達のいないアスマくんとお茶でもして差し上げようかと思いまして」
「帰る」
「いやだなあ、冗談ですって」
「別におれ、お前しか友達いないわけじゃないから。アメリカにいるから」

長南アスマは帰国子女だ。
高校までは海外で暮らし、日本の大学に入学して約1年。その間、こちらでできた友達はキヌガサだけ。
友達がいない、と言われればそのとおりのような気もするが、アスマとしては、この奇怪な男しか友達がいないというのは認めたくないことだった。

「まあそう怒らないで。イケメンが台無しですよ」

キヌガサはふざけた口調でそう言うと、不意に真面目な表情になった。

「ところでアスマくん。最近、変わったことはありませんでした?」
「変わったこと?」

質問の意図がわからない。
が、とりあえず最近の出来事に思いを巡らしてみる。

「…特に、ないけど」
「そうですか…まだなんですね」
「『まだ』?」
「いえ、こちらの話。それならいいんです」
「なんだよ。言えよ」
「じきにわかりますよ、今夜あたりに、ね」
「?」

これ以上食い下がっても無駄なことは、1年の付き合いの中でなんとなくわかっていた。
まったく、変な奴だ、このキヌガサという男は。