いつもどおり直海さんに「これ、やってみ」と問題集を広げられ、設問を読もうとするけれど、目で追っているだけでまったく頭に入ってこない。
直海さんは僕の様子を静かに眺めていた。
シャーペンを握ったまましばらく動けずにいると、直海さんは僕の椅子の背もたれに手を置き、僕に顔を寄せた。
「大丈夫か?」
直海さんの穏やかな声に、一瞬心が震えてしまった。
僕の目に、また涙が浮かぶ。
「リン」
直海さんは僕の名をそっと呼んだ。
ちらりと直海さんを見上げると、直海さんは穏やかな笑みを浮かべて僕を見つめていた。
直海さんの瞳に吸い込まれるかと思った。
「泣きたい時は泣け」
すると、直海さんは僕の頬にそっと触れ、微笑んだ。
その言葉に、僕の目にたまっていた涙はほろりとこぼれ落ち、直海さんの手を濡らした。
直海さんは、ずっと穏やかな視線を僕に送り続けてくれた。
そして。
それはまったく自然だった。
お互いが吸い寄せられるように、ゆっくりと唇を重ねた。
初めての柔らかい感触。
キスって、温かい。
心にほのかに灯りがともったと感じた瞬間。

