遠く座れば良いものの、その男は数センチ空けた先に座る。

そしてあろう事か、煙草を吸い始めた。

師走直前。寒さが肌に当たる。

寒風が男の吐く副流煙をこちらに流してくる。それを吸い込みながら、自分とは違う銘柄に舌打ちをした。

本日二度目。

場所移動だ。こいつの副流煙を延々と吸わされるなんて生き地獄にも近い。

立ち上がって煙草を仕舞おうとする。


「クラギ」


呼称されているそれを呼ばれた。

振り返ると、曇りのない笑みを浮かべた煙草を指に挟む男。

こいつ、誰だろう。