いつもの、日常…。


私は、友人の高津くんと共に…職員室へと、向かう。

よりにもよって…ニシハルからの、呼び出し。


廊下を歩きながら、談笑していると。高津くんの様子に…

異変が起こった!


その大きな瞳から……涙が一筋、流れていたのだ。




『……まあ、緊急事態だわ。』




職員室にはいって。


見慣れた広い背中-…、
癖のある黒髪に、うっかり見とれながらも……、思いきって声を掛けた。




「……仁志先生。」




名前を呼ばれたニシハルは……、回転椅子をくるりと回して。



こちらに振り返った。


「…5組の日直って…お前?」


「…ハイ。私と、高津くんです。」


「……あっそう。てか、遅すぎ。」




「すみません。あの、それより。」



「……は?」



イラッとした顔。



ホント、短気ねぇ……。




「…その椅子、貸していただけませんか?」


「……??は……?何で?」


「…いいから。急をようするのです。」


私はニシハルの腕を掴んで……、



「先生はこちらへ。」

席を立たせる。




あら……、
意外と手首がガッチリしているわ。



「……?何なんだよ…、一体?」


はてなマークが飛び交う先生を無視して、高津くんを椅子に引っ張ってくる。


他の先生方が……
何事か、と、周りに集まってきた。


「仁志先生。すみませんが…、これを持っててください。」



私は先生にポケットティッシュを預けると……。



「では。オペを始めます。」

高津くんの頭をガッチリと掴んだ。



無抵抗の高津くん。



麻酔が……
効いたのね。

(注:諦めているだけ)





「………メス(目薬)!」


高津くん……、すぐに終わるわ!

閉じようとする瞳をこじ開けて…。


「…ほら、しっかりして!」



ぽたん……、と2滴。


目薬を垂らす。

(注:いっぽは目薬を常備しています)



「高津くんッ、瞬き!」

「……はいはい。」


「……。ティッシュ!」


「…………。」


「仁志先生、ティッシュ!」



「…………。」




彼は無言のまま……


私にティッシュを手渡してきた。



「……手術は……、成功です。」

ふうーっと息を吐くと、しばらく黙っていたニシハルは……、既に、イライラ…MAX!


「……三船…、高津……。」


「……はい、お待たせしてすみません。用件はなんでしたでしょう?」



「………。職員室はイチャつく場所じゃねーんだよ。はい、今すぐ出ていけ。」

いとも簡単に……、

私たちを、職員室から…つまみ出した!


ピシャリとドアを閉められる。




全く…、彼の感情のスイッチは、どこにあるのかしら。

叱られたのに…


全然、悔しくない。




「三船はさ…、ニシハルをどう思ってる?」


高津くんは、そんな私に…

ポツリと、呟いた。


「……どうって…、先生だし、宇宙人だし、面白い人かと。」


「……百歩譲って、そうだとしよう。つまりは…、奴を先生として認めてるってことだよな。」



「……ええ。莉奈ちゃんの一件で、だいぶ見直したわ。」


「……なら。男としては…?」



男として…?


そもそも…、男女を強く意識した試しもない私には、そんなの……難題だわ。


「…別に、好きとかそういうのではない。」




この、言葉が……


決定打だったのだろうか……?

自分が放った言葉なのに、その台詞は…妙に宙に浮いてしまっていて。


説得力に…欠けていた。




認めざる得ない、知らない感情が……


ゆっくりと、育っていることに。


気づいて…しまったのだ。