流石にお得意様を無下に扱うこともできず、私は胡散臭い笑みを浮かべた息子とお茶を共にし、ついには夕食まで食べた。


散々口説かれて辟易したところに、とどめにプロポーズだなんて驚きだ。


『もう分かっていると思うけど……僕は君を愛してる。結婚してくれ』


勿論断ってやった、きっぱり。


元々、会うたび彼のアタックにはうんざりしてたからこれでスッキリ。


ついでに傷心につけこんで新製品の契約もしてやった。


ーーその馬鹿息子を置き去りにして、店の前で課長に電話したのが7時だった。


8時までに発注をかければ今日のノルマに間に合う、そう思って連絡した私に、課長は珍しく(彼は仕事の鬼である)今日ぐらい休めとうんざりした声で言った。


彼も独り者なので部下と呑みに行っているようで、周りは騒がしそうだった。


ガヤガヤと聞こえる声に胸がチクリとするのを感じながら、気にしないようにして報告だけしておいた。


だけど、なぜか胸のチクチクは治らないままだから、わたしはそんな気持ちを早く捨てたくて。


どう考えても間に合うわけがないのに躍起になってタクシーを飛ばして、渋滞に巻き込まれたタイミングで下りて走り。


今日じゃなくてもノルマには入るのに、私は今まで発注をかけていた。


「嗚呼…なんて馬鹿な私」


今日ぐらい休め、ほんとにその通りだと思う。