あの美味しいパンを作っていたのは、千春ちゃんの彼氏だったの?


あたし、てっきり千春ちゃんのお父さんが作っているものだと思ってた。


「自分の作ったパンをそこまで気に入ってくれて嬉しいって言って。

いつも彼がすずちゃんのために、セレクトしてくれてるんだよ」


「うわー、そうだったんだー」


「彼もね、お礼が言いたいって言ってたの」


「お礼?どうして?」


思わず目をパチパチさせると、千春ちゃんがにっこり笑った。


「うちのお店ってね、昔からある地味なパン屋だし。

最近のお洒落なパン屋さんとは、ちょっと雰囲気が違うのよね。

古くからの常連さんは多くいるんだけど、若い女の子はあまり寄り付かないっていうか。

だから、若い女性に好まれるのは、やっぱりすごく嬉しいことみたい」


「えー。だって本当に美味しいもの。

あたしこそお礼を言わなくちゃ、だよ」


「長谷川君、きっと喜ぶと思うなー」


そうなんだ…。


あのパンを作った人に会えるなんて、すごく嬉しい。