コートに戻ると、男子の会話が耳に入ってきた。


「中出、最近飯田さんと仲いいやん」

「そう? 別に」

「だって、名前で呼んどるし」

「あの人、名前で呼んだ方が喜ぶらしいよ」


おい、中出。今の聞き捨てならねえぞ。


お前が自然と名前で呼ぶようになったんじゃねーかよ。そりゃ、名前で呼ばれたら嬉しいけど、あたしは一言もそんなこと言ってねーぞ。


「中出的にはどうなん? 飯田さん」

「まあ、好きにはならん。大丈夫大丈夫」


あたしは背を向けている中出目掛けて、ペットボトルを投げつけた。


パコーン! という大きな音を立てて、中出のサラサラの茶髪頭に見事命中。


「ってえぇぇ……」

「よっしゃ、ストライク」


満面の笑みを浮かべて、あたしは後頭部を押さえる中出の横を通り過ぎた。


「奈子……こわいよ」


志満ちゃんが震えた声を出したけど気にしない。


大丈夫って、何が大丈夫じゃこらあっ!