次第に速まる鼓動、近付くことで鮮明になる正体に緊張も高まっていく。

あれは寝台だ。あそこに聖がいる。

それは幾重もの術をかけられていることが明白で、寝台を包むようにまじないの帯が廻っていた。

中がどうなっているのかはよく見えない。

歩きながら目を凝らすが帯がそれを拒むように執拗に回り続けていた。

「カルサ、貴未。」

前を歩いていた紅が振り返り、戸惑いをもつ二人と真正面に向き合う。

「こん中に聖がおる。見ての通り呪符がかかっとるけど、あんたらには害はないから中に入れる。」

何の感情も感じさせない表情のまま告げられた状況にカルサは顎を引き、貴未は頷くことでそれに答えた。

二人とも覚悟は出来ている、それが分かると紅は先に呪符の奥へ入っていく。

示し合わせた訳ではないが、カルサと貴未も同時に足を踏み出し紅の後に続いた。

「…来たで。」

紅の声が響く。

術の中にあったのは一つの大きな寝台、そしてそこに寝かされていたのは。

「聖…?」

ある程度の予想はついていたし覚悟はしていたが、それ以上の衝撃が走って反応が鈍く出てしまった。

かろうじて出せた声は掠れていただろうか。

傍にいた紅は寂しげに微笑むとカルサの考えを代弁するように語り始めた。

「生きてるのか死んでるのか分からへんやろ。まあ…あたりなんやけどな。」

血色は悪くない、しかし良い訳でもない。

まるで人形の様に横たわる、偽物でも目にしているような気分だった。

随分と精巧なものだと良い放ちたいほどに信じがたい。

「あの襲撃の日な。うちは結界石の間におってん。」