焦っても前に進めないのなら確実に自分の意識と共に踏み込んで行きたい。

「カルサ。」

名前を呼ばれた気がしてカルサは振り返る。しかしそこには誰もいなかった。

誰もいないのに何かが近くにあるような不思議な感覚に包まれている気がする、カルサは空を仰いで気配の正体を探した。

ここは庭に面した渡り廊下、見通しのいい場所だが誰の姿も見えない。

しかし僅かだが耳に入る風の音が前よりも強くなっている気がするのだ。

もしかして、その気持ちがその名を声に出させた。

「リュナ?」

名前を呼んでも反応はない。

目を閉じて風の吹く源はどこか、深く深く手繰り寄せるように正体を探した。全ての神経を集中させて辿った先には見覚えのある髪がなびいている様子が見える。

「リュナ。」

やはり彼女なのだろうか。

それとも、そう思いながらカルサは剣の柄に結ばれているリュナの飾りに触れた。

もう何度目か分からない動作にどれだけ自分がリュナを求めているのか思い知らされる。

リュナのいる場所は間違いなくヴィアルアイやロワーヌと同じところだろう、それが一体どこなのかまだ分かっていない。

亜空間であればどのようにして事を為していくのかもう少し考える必要があった。

シャーレスタンの記憶を辿る為に圭は自分が命を落としたであろう聖水の湧き出る泉に向かうと言っていたし、マチェリラはあの惨劇の現場に行くと拳を固く握りしめていた。

それぞれが決戦の前に自らの心と対峙しようとしている。

沙更陣と話したことによって自分の中の覚悟が出来ていることを確信した。