カルサは女官に声をかけてレプリカを移動させるように命じた。

レプリカを乗せたベッドは寮にある彼女の部屋へと運ばれ、彼女は部屋に備え付けられているベッドに寝かされる。人の目を気にしないようにするのであれば王族区域にあるリュナの部屋を使うのが一番だがそうもいかない、幸いにも人の気配がしない寮は会話をするに最適の場所だと言えた。

「傷は癒えた筈だ、後は体力さえ回復すれば問題はないだろう。一度は命も危ぶまれたものの、レプリカも助かって良かった。」

思いがけない言葉に驚いたが、首を横に振り真っすぐにカルサを見つめる。起き上がろうとするレプリカをカルサが止めたが、彼女はそれを押しのけて座るような姿勢になった。

まだ完璧に戻ったとは言えない身体は不安定に揺れるがレプリカの意思が強いため横にさせることも出来ない。せめてものとカルサは彼女の二の腕辺りに手を添えることで手助けをした。

「全て…貴方様のお力でございます。どれほど感謝してもしきれません、皇子。」

皇子、それは彼女の口からは聞き慣れない言葉だった。次第に緊張感が漂い始め何の反応も出来ずに彼女を見つめたまま時間が過ぎる。

レプリカはゆっくりと頭を下げてお辞儀をした。

「お話します。」

「この部屋には結界が張ってある。気にせず話してくれ。」

カルサの言葉にさらに頭を下げるとレプリカは真剣な面持ちで顔を上げる。

「私は風の神官である環明様の側近、アバサの孫のリュナと申します。」

「アバサ?環明にそんな側近がいたとは知らなかったな。」

「内々でほとんど外には出ておりませんので、ご存じなくても無理はありません。しかし、これならどうでしょうか。アバサは別名・風蝶の婆。私とセリナ様をこの国で育ててくれた者でございます。」

またカルサの頭の中で空白になっていた場所に何かがはめられた。穴だらけだったパズルにピースがはまったような感覚に似ている、微妙に浮かび上がってくる絵は一つの存在を明らかにしつつあった。

手繰り寄せれば何かが見えるだろう、カルサの手には確実に糸が握られている。

「私とアバサは二人で全てからセリナ様を守ろうとしました。それ故セリナ様には何も知らせてはおりません。」

「リュナのあの力は?」

「環明様から直々に受け継いだものです。」