「何を知ったか、だいたいの想像は出来る。…何を思っているかも分かる。」

それでも、そう言ったきり千羅は言葉に詰まってしまった。

怒りが迷いに変わりそうだった、しかし手の中にある〈永〉を握り貴未は持たねばならない気持ちを取り戻す。

「それでも、記憶は消せない。」

貴未の目は再び真っすぐ千羅に向けられた。

それは真実を求める強い思いの表れだ。

日向に目をやると、彼はまだ意識を閉ざして眠っていた。

それを確認し、千羅は貴未を奥の部屋に促す。

部屋を区切る扉を後ろ手に閉めても日向の眠りは覚めないままだった。

「何から話せばいいんだろうな。」

書斎の方の部屋を選び、千羅は背を向けたままの貴未と自分に向けて口にする。

「まず、何があったのかを教えてくれないか?」

千羅の声に答える事無く、貴未は振り返ると本棚に背中を預けて話し始めた。

この瞬間、千羅が念の為に書斎に結界を張ったことを貴未は知らない。

貴未はまず、日向の故郷近くに降り立ったところから話し始めた。

マチェリラを探したこと、圭のこと、貴未の長い話は始まったばかりだった。