へたれ王子




「せ、先輩?」

「なに?」



横を向いた途端、至近距離で菊池先輩と目が合うから、思わずドキッとしてしまった。


菊池先輩にとっては普通のことなんだろうけど、

あたしにはちょっと刺激が強すぎるよ…。


そう思いながら、「では、そろそろ出ますか」って立ち上がろうとしたら、



「だめ」

「!!」



その腕を、一瞬にして菊池先輩に強く引っ張られた。

そしてその反動で、あたしは平均台のすぐ近くにあるマットに倒れこむ。



「えっ、な…菊池先輩っ!?」



あたしは突然のことにびっくりして起き上がろうとしたけど、すぐに菊池先輩があたしに跨ってきて動けなくなってしまった。


なに!?なになになに…!?


菊池先輩の行動に完全にあたしがビビッていると、菊池先輩は首元のネクタイを緩めながら言う。



「…慣れてないなら、教えてあげるよ」

「え、」

「どーせ、茉友ちゃんは全部知らないんでしょ?だったら、俺が一から全部教えてあげる、」




そう言って、ニヤリ、と妖しく笑う。


その瞬間、あたしの脳裏にはまた、昨日星河先輩から言われた言葉が過った。



“菊池君。アイツには気をつけな?”

“とにかく、むやみに近づかない方がいい”



「!!」






ほ、星河先輩、たすけてっ…!!