「あっ、もしかして夏野さんですか!?」
「え、あっ…」
「ちょっと待ってくださいね!今呼んで来ますから!」
「夏野さーん!」

……終わった。
完全に、待ち伏せ失敗だ。
彼女達は俺が何も言っていないのに口々にそう言うと、早速茉友ちゃんを呼び出してしまう。
ああ…出来ることなら、茉友ちゃんが知らないまま廊下に出て来て、ビックリされるっていう展開が、よかったのに。
これじゃあ迷子の星河先輩だよもう。

そう思って思わずため息を吐くと、その瞬間…

「ほ、星河先輩っ…!?」
「!」

やっと、茉友ちゃんが教室から顔を出して、俺の存在を確かめに来た。
…けど、かっこつかないなぁ。まぁ別にいいけど。仕方ないし。
だから俺は、何だかぎこちないながらも、茉友ちゃんに言う。

「あ、茉友ちゃん。…来ちゃった」
「ど、どうしたんですか?いつもは教室で待ってるのに」
「まぁ…たまにはいいかなぁなんて、思って」

…ほんとは、こんなはずじゃなかったんだけどね。
でも、そう思いながらも、俺はその場を誤魔化すような笑顔を浮かべる。
それでも、茉友ちゃん…喜んでくれたらいいな。
そう思っていたら、茉友ちゃんが言った。

「あ、じゃ、じゃあもうちょっと待ってて下さい!すぐ来ますから!」

茉友ちゃんはそう言って、再び教室に入って行ってしまった。
きっと茉友ちゃんは、帰り支度をしている最中に呼ばれたんだろう。
それでも数分くらい待っていると、やがて茉友ちゃんが再び教室から顔を出して…

「お待たせしました!」
「!」

そう言って、眩しいくらいの満面の笑みを浮かべて、嬉しそうにして見せてくれた。





【待ち伏せ/おまけ①】




(…茉友ちゃん、俺が迎えに来てどうだった?)
(え、すっごく嬉しいですよ!)
(よかったー)