へたれ王子




茉友 side



菊池先輩とのキスの話が、校内の何処を歩いても聞かされる。

あたしは思い出すだけで恥ずかしくてたまらないのに、やたら「キスしたって本当?」「付き合うの?」「友希はどうすんの?」って、皆はそればかり聞いてくる。

でも、星河先輩にはちゃんと話さなきゃいけないのは確かで、もともと気まずいなか話すのも緊張するし不安だけど、あたしは思い切ってメールをしてみた。



“一度ちゃんと話がしたいです。どこにいらっしゃいますか?”



昼休みに震える手でそう打って、返事が返って来たのは放課後だった。



“保健室にいる”



あたしはその文章を見ると、鞄を持って教室を後にする。

その途中も、「大将のトコ行くのー?」ってからかわれたけど、聞こえないフリをして星河先輩のところに走った。



会いたい。早く星河先輩に会いたいっ…。



そう思いながら急いで保健室に行くと、そこには保健の山下先生はいなくて、カーテンが一つのベッドを囲んでいるのが見えて、あたしは恐る恐るそのカーテンを開けた。



「…ほ、星河先輩?」



中を見てみると星河先輩は寝ていなくて、ベッドの上に座っていた。

そしてあたしの存在に気が付くと、「そこ座って」と近くにある椅子を指さす。



「し、失礼します…」



あたしがぎこちなくその椅子に座ると、星河先輩が言った。



「昨日は…ごめんね」

「!」

「や、あの、ごめんっていうのは、勘違いさせて“ごめんね”って意味なんだけど」

「…」

「…昨日のあれ、キスしてないから。田中先生と」



星河先輩はそう言うと、ちょっとだけ自身の頭を掻いた。