西日が照りつけ、サウナのように暑くなった体育館。




その、熱を残したままの…猛暑日。


ひたすら、シュート練習に励んでいると。







転がっていったボールを拾って、

桐山流が…


それをワンバウンドさせながら……



館内へと…入ってきた。



「練習相手。」









ボールが弾む音と、
蝉が忙しく騒ぎ立てる声とが……調和して。


ただ…それだけなのに、



会話なんて、殆どないのに…




心地よかった。



オレンジの夕日が、体育館を赤く染めて。


ゆっくりと…時間は過ぎる。


日が……落ちていく。







「……はい。」


練習を終えて、帰り仕度する私に…


君は何かを差し出す。

「……ありがとう。」


先に帰ったのかと思いきや…、



差し出されたのは、ひんやりと冷たい…缶のスポーツドリンク。



わざわざ、買ってきてくれたのだろうか…?





校舎を出て、それでも何故か…

隣りを歩く、私達。


帰る方向が同じだから、必然的にそうなのかもしれないけど……。


体の左側が、妙に…緊張する。



「船橋は…、バスケ、続けるの?」


「……え。」

「この大会終わったら……どうする?」




頭を過る…

「引退」の二文字。


進学希望であれば……、そうして、勉学に励むのが…妥当だろう。

でも……、



「………桐山は?」


「続ける。」

「そっか…、男子はウィンターカップ狙えるもんね。」


全国に名を残せば…、バスケで生きる道筋だってできる。


桐山なら。


大学だって通用する花形選手に…なれそうだもん。




もっと、見てみたい。


バスケを辞めたら……敵わない夢だけど。





「チャンスは…、そっちにもあるだろ。」



「……え…?」


「今、こうしてここにいるのは…何で?」


「……………。」


「まだ、チャンスに恵まれないだけ。あんたがしてきたことに…、必ず、意味があると思う。」



………?

桐山……?



「何もないやつに、キャプテンなんて任せられない。…船橋は、船橋なりの…ポジションがあるから、だから……みんな、アンタについていくんだろ?」



「……。誰も…ついて来てなんていない。桐山とは…違うよ。」


「……。頼られてるだろ。負けた時も、勝った時だって…、みんな船橋の話を聞こうとすんじゃん。それに、1年の基礎練に根拠強く付き合ってんのも…アンタだし。」


「………。」


「俺が、手を抜いたことだって…、見抜いた。冬の、交流試合の時。」


「……、あれは……。」


「アンタがコートにたったら、いい司令塔になるよ。俺と同じ…ポイントガードに向いてる。」


「………。」



「能ある鷹は爪を隠すって言うだろ?船橋は…まだ、爪を隠してるだけ。人にはない能力を…ひた隠しして。俺も自分だってそうだと思いたい。まだ、できるって。」


「…………。」


「でなきゃあ、今までの努力はなんだったのって話。」




普段無口な桐山の言葉は……


一つ一つに、重みがある。


燻っている、心の奥底にある何かを…


引き上げるように。