残されたのは、俺と北条さんと、寝ているおじさんの3人だけだ。


北条さんがビールを一口飲んだから、俺も一口飲んだ。


さっきも会社の飲み会だったから、一気に飲むことは出来なかった。


「あの時よりも、随分と大人になったな。」


北条さんは俺を見て一言そう言った。


「ありがとうございます。」


それからなんとなく緊張感が解けて、俺たちは世間話をしていた。


話が弾んできて、ビールがなくなりかけた頃、酔っていた俺はこんな事を口走った。


「妃奈とは…どうなったんですか?」


「結婚したよ。」


「へ?」


「俺と妃奈、結婚したんだ。」


「そうだったんですか?
おめでとうございます!」


大学を卒業してから、俺は妃奈と連絡を取っていなかった。


だから、妃奈が先生になったのは知っていたけど、その後の事は分からずじまいだったのだ。


「そっか。
妃奈、結婚したんだ。」


あの時は悔しいから認めたくなかったけど、妃奈と北条さんはお似合いだと思う。


多分、妃奈にとっても、北条さんにとってもベストな選択を2人はしたんだ。


「俺も、今度結婚するんです。」


「おめでとう!
良い報告が聞けて嬉しいよ。」


「俺も、言えてなんだか嬉しいです。
お互い、幸せになりましょうね。」


「俺はもう既に幸せだ。
これ以上ないくらい幸せだ。」


北条さんも酔っているのか、惚気だした。


そりゃそうだろう。


あれだけ自分のことを想ってくれてる人と一緒になれたんだ。


俺には最初から勝ち目なんてなかったんだ。


出会った時も、付き合っていた頃も、見て見ぬフリはしてたけど、妃奈の中には俺じゃない人がいたんだ。