それを固まったまま先輩が受け取れないことを判断すると、するりと手を離す。

重力に逆らえない手紙は何とも虚空な音を立てて落ちた。

それから夜久君は自分も靴を上靴を革靴に取り換えて履くと、此方を見た。


「まだ、靴履けてなかったのか」


そこで初めてあたしは革靴を持ったまま、動きが止まっていたことに気付く。

夜久君に手紙を奪われたことで思考が停止してしまって、それどころじゃなかった。

『ぁあ、ごめん』と生返事を返して、あたしも靴を履く。

それを確認した夜久君が先に昇降口を出ていこうと歩き出したその時。


「ま、待って! これには深い事情があって!」

「そ、そうだよ! その子の態度に頭来ちゃって少し感情的になっただけなんだから!」

「あたし達は元々危害を加えたかったわけじゃないんだよ!」


我に返ったのか、先輩達が一生懸命言い訳を繰り返す。

この期に及んでまだ誤魔化すのかと呆れてしまったのはあたしだけじゃなかったみたいだ。

振り返った夜久君の機嫌がすこぶる悪い。


「俺すげー怒ってるんです。これ以上話しかけたらなにしでかすか分かんないんで消えてください。それから」


必死に怒りを理性で抑え込んだ声音に先輩達はみるみる顔色が悪くなっていく。

そして、止めを刺すように言った。